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あのひとの描く人生模様 #01

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産婦人科医・高尾美穂さん vol.2
「悩みやつらさは、ずっと続かない。すべてのものは変化する」


はつらつとした笑顔とポジティブな言葉で、周囲を明るく、軽やかな気持ちにしてくれる産婦人科の高尾美穂さん。凜として真っ直ぐな姿勢は、どのように生まれたのでしょうか。人生の波を振り返りながら、その生き方と思考をうかがいます。
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Photo : Kohei Yamamoto
Text : Akari Fujisawa
Edit : Ayumi Sakai

否定されずに、幅広い考えのなかで育った

落ち込みからの立ち上がりが驚くほど早いと話してくれた高尾さん。子ども時代について尋ねると、「ピーマンの肉詰めが出ても、ピーマンだけ食べちゃうような子」と笑いながら振り返ってくれました。どうやら幼少期の育ち方にも、いまの高尾さんをつくるヒントがあるようです。

「お肉を残しても、親は『ちゃんと食べなさい』と叱るのではなく『食べなくてもいいけれど、代わりのものは作らないし、あとは自分でなんとかしなさいね』というタイプでした。自由の裏には責任もあるということを、自然と伝えていたのかもしれません。

自分を否定されることが一切なく、自由にやりたいようにさせてもらっていました。中学校でのいじめのときもそうですが、よく話を聞いてくれたし、自分の選択を尊重してくれていたと思います。兄とは7歳離れていたので、大人に囲まれるような生活だったことも大きいですね。ずいぶん大切に育ててもらいました」

そんな母親はお茶の先生。自宅にはいつも、お稽古に通う大人たちが出入りし、ときには、その子どももやってきては、一緒にしゃべったり遊んだり。親以外の大人や、異年齢の子どもたちと接する機会が多い子ども時代が、いまの高尾さんの思考の基盤となりました。

「同世代との話は、たいてい情報源が同じですが、年齢が違うとそれも異なっておもしろいんですよね。否定されずに育ったこと、そしていろいろな人との交流で幅広い考えを知れたこと。このふたつは、いまの私のベースを作ってくれていると感じています

すべてのものは、かならず変化していく

高尾さんが落ち込みから回復できる秘訣はもうひとつ。それは、「つらいことが起きても、『もとに戻りたい』とは考えない」ということです。

「これは職業柄、日々実感しています。お産を終えたお母さんはみなさん、口を揃えて『妊娠前に戻りたい』って言うんです。でも、お腹の皮膚は伸びるし、骨盤の状態も変化する。妊娠前には戻りません。それよりも、『いま、もし困っていることがあるのなら、その状態をより良くしよう』と考える方が建設的です。

すべてのものは、常に変化していきます。だから、いま悩みやつらさを抱えていても、同じ状況がずっと続くとは考えなくていいんです。

子育てや仕事、友人関係、親やパートナーとの関係……、悩みはそのときどき、人それぞれにあります。しかし子どもは成長し、世の中も社会の状況も変わっていきます。いま常識だとされていても、10年前にはとんでもなく非常識だったこともあるでしょう。LGBTQ +の認識も、少し前とは社会のあり方がずいぶん変わったと思いませんか?」

「目の前にあるこのテーブルだって、ずっときれいな状態であるように見えてもミクロの単位で見ればかならず変化を続けています。どんなものでも元通りに戻るというのは、物理的に叶えられないことだという考え方が私の根本にあるのです

あのとき、あんなことを言わなければ。あの状況が、もし違っていれば。過ぎたことを後悔したり、「たられば」にとらわれてしまうことが誰しもあります。でも、過ぎた時間は戻らないし、すべてのものは変化していく。そして、永遠に続くことは、決してない。 そう知っているだけで、もしいつか、暗闇に迷い込んでしまうことがあっても大丈夫。いざというときのお守りになりそうな考えです。

24時間を機嫌よく有意義に使うには「眠り」から

「疲れや落ち込みで、とにかくどうしようもないという人は、まずは眠ることから始めてみましょう」と高尾さん。

高尾さん自身、大学病院勤務のころは、24時間体制でお産に向き合う生活を続けていました。しかし年齢を重ねるごとに、日中のパフォーマンス低下を実感するようになったといいます。そこから睡眠医学を学び、その重要さを腹の底から実感。みずからの意思で、ワークスタイルを見直すことを決め、40歳を前に大学の医局を辞め、転職。夜勤がない現在のクリニック勤務を選びました。

睡眠は、みなさんが思っている以上に重要です。夜にしっかり眠れば、それだけで昼間はご機嫌に過ごせるし、体調も整いやすくなります。 ただ、こうしてお伝えしても、『そうそう睡眠って大事だよね、でもできないんだよね〜』で終わっちゃうんですよね。

でも24時間は誰にも平等。それをどう有意義に使うかは、自分で変えていくしかないし、かならず変えられます。眠っている時間は、起きている時間を大事にするための時間だと、ぜひ捉えてみてください

眠りに深く向き合うためにも、まずは寝る直前までパソコンやスマホを触っていないか、寝室の環境はどうかなど、基本的な環境を見直してほしいと高尾さん。

「特に深く眠れない、夜中に目が覚めやすいという人は、まずはその原因を探ってみましょう。悩みやモヤモヤで眠れないなら、無理に眠ろうとしなくても大丈夫。3、4日もすれば、かならず眠れますから。食べなくては生きられないように、人間は眠らないとやっていけません。だから今晩眠れなくても、4日目にはきっと眠れる。そんなふうにとらえてみてくださいね」

次回、vol.3では、身近な人が落ち込んでいるときの接し方、そして年を重ねるほどに大切にしたい周囲との付き合い方をお届けします。


< 私の心のお守り その2 >
「ふと思いついたことや、本を読みながらいいなと思った言葉は、 忘れないうちに手帳に書き留めます。
フラミンゴマークの手帳は、毎年作っているオリジナル。
「ここにも毎年、わたしがいいなと思う言葉を手書きでプリントしているんですよ」
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