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あのひとの描く人生模様 #01

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産婦人科医・高尾美穂さん vol.3
「人生、たいていのことはなんとかなる」


はつらつとした笑顔とポジティブな言葉で、周囲を明るく、軽やかな気持ちにしてくれる産婦人科の高尾美穂さん。凜として真っ直ぐな姿勢は、どのように生まれたのでしょうか。人生の波を振り返りながら、その生き方と思考をうかがいます。
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Photo : Kohei Yamamoto
Text : Akari Fujisawa
Edit : Ayumi Sakai

大切な人が落ち込んでいたら、ただ隣にいる

メンタル不調を抱える人が多いとされる現代社会。自分が抱えるモヤモヤと向き合うだけでなく、パートナーや友人など大切な人を支えたいと感じる場面もあるかもしれません。

落ち込んでいる人がいれば、ただ隣にいる。それだけでいいんじゃないでしょうか。

もし話したい様子だったら『聞くよ』かな。意見は言わず、ただ聞くだけ。
そのうえで、『私と一緒にしたいこと、行きたいところがあったら言ってね』と伝えておくのもいいですね。一緒にお茶を飲むとか、絵を見に行くとか。

そのうちに時が経ち、その人の中にもだんだんと新しい考えが生まれてくるはずです。ここでもやっぱり、時を待つ。それが大事だと思います」

一日中つらいと感じていたけれど、一週間経ったら仕事をしている間だけは忘れられるようになっていたという経験はありませんか。
2話目で、「すべてのものは変化する」とあった通り、つらい、苦しいという感情も、虫眼鏡で覗くようにじっくり観察してみれば、状況や気持ちは少しずつ変わっているのだといいます。そして大切なのは、その変化に自分で気づけるかということ。

「2週間くらい経ったころに、『どう? ちょっと落ち着いてお茶が飲めるようになってきた?』なんて聞いてみると、ああそういえば家にこもっていたときに比べてカフェに立ち寄る元気は出てきたなあとか、本人なりに、ほんの少しの変化を感じ取れたりします。表面上では『まだまだ、全然』なんて答えていても、本人が内心で気づけていればそれでいいのです」

この「たずね方」にも、小さなコツがありました。診察やヨガの指導中、特定の不調改善を目指しているときは『どうですか、良くなりましたか?』と聞くより、『この部分がこんなふうに変化するはずなのですがどうですか?』と具体的にたずねるそうです。

「漠然と聞くオープンクエスチョンではなく、イエス・ノーで答えられるようなクローズドクエスチョンです。小さな変化は、悩みの渦中にいると気づけませんから、『こんなふうに変わっていくかもよ』と具体的に伝えることで、自分で自分の変化に気づいてもらえるんですね

行動が変われば、心が変わる

スポーツドクター、そしてヨガインストラクターの顔も持つ高尾さんは、ライフスタイルの移ろいに合わせ、運動を通じて体を整えるアドバイスもしています。メンタル不調と運動は、どのように結びつくのでしょうか。

落ち込んでいるときに、無理に運動をしなくちゃ!って思わなくていいんですよ。運動が好きなら、きっともう始めていますし、落ち込んでいる状態で運動を始めるのはハードルが高いですよね。
ただ知っておいてほしいのは、落ち込みかけている調子を引き上げるために、運動はひとつの手立てになるということ。運動がメンタルの調子を改善することも研究からわかっています。

私たちが自分で変えられるのは、骨格筋だけ。心の状態や意識を変えるのは難しく、自分の意志で落ち込みをどうにかしようとしても、なかなかできません。でも行動は変えられる。そして行動を変えれば、気持ちは自然と変わるのです

得意なことで「ありがとう」のサイクルをつくる

さらに、すこやかな心をキープするためにも普段から心がけたいこととして挙げてくれたのが、人に頼る大切さです。

無理なことを、ぜんぶ自分で背負いこまなくたっていいのです。人はひとりでは生きていけないですよね。誰かを頼るのも大事なスキルです。

こうお伝えしても、頭ではわかっているけれどなかなか実際には難しいと感じてしまうのも当然のことです。私たちは、『できないことをできるようになりましょう』という教育を受けてきましたから。

でも、得意な分野はそれぞれ違います。一方が、こんなこと頼んでしまってと恐縮するような内容でも、得意な人にとってはたいした負担には感じないものです。
お願いした方は『ありがとう、助かったよ』と声をかけ、引き受けた方は役に立てたとうれしくなる。年齢を重ねていけばいくほど、こういった気持ちの循環が大切になっていくのを感じています

「悩んでいる人がいたら話を聞くことは大切ですが、最後にどうするかは本人が決めること。人生は、その人自身のもの。どんなに周囲からやさしい言葉をかけられても、最終的に気づいてアクションを起こすのは自分です。

誰かの悩みを聞くときも、そして自分の悩みですらも、『紙芝居のなかの世界』という認識でいるくらいが、ちょうどいいのかもしれません。

わたしも嵐の中にいるような時期がありました。でも、時間が経てば大丈夫。たいていのことは、なんとかなりますからね

あらかたの取材を終え、高尾さんが空の写真を撮るのが好きだという話になりました。「昨日の夜も、月がきれいだったよねえ」とニコニコしながら話す手元のスマホには、青空や真昼に見える白い三日月など、さまざまな表情の空が。
忙しくても、都会に暮らしていても、悩みの渦中にもまれていても。空を見上げて「あぁきれいだな」と思う瞬間を、ほんの少しずつでも重ねていくことなら、いますぐ真似できそうです。

見上げた空が、みなに等しくつながっているように、1日24時間も、みな同じ。過去を振り返って悩んだり、未来を憂いて落ち込んだりするときは、ちょっとだけ空を見上げてみるのもいいかもしれません。


< 私の心のお守り その3 >
「誰かの悩みに巻き込まれず、自分のしたいこと、楽しいことをやっていけたらいいですよね。
大人ってこんなに人生楽しいんだよ!って、
いまの若い人たち、子どもたちに見せていくことが大人の役割だと思っています」
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