世界中から注目を集めている「禅」の思想を、
やさしい言葉で伝える活動をしている宇野全智さん。
心の問題にまつわる活動も多く、
生きづらさを抱えている人々に心が軽くなるメッセージを伝えています。
現代人が感じているさまざまな悩みに対し、
2500年の歴史を持つ仏教&禅宗の僧侶は
どんなアドバイスを伝えてくれるのでしょうか。
● この先の自分の将来に、希望が持てません
● 人生の曲線グラフ
● 「呼吸する自分」を感じ そのゆったりした気持ちを基準点に
「この先の自分の将来に、希望が持てません」
テレビやネットを見ていると暗いニュースばかり、お給料も上がる兆しもなくて、この先に何かいいことがあるように思えません。常にちょっと落ち込み気味で、スキルアップするようなモチベーションが持てず、仕事や家事などにやる気も出ません。
「誰もが皆、等しく死んでいく」
それだけは確固とした事実
仏教は「人間は平等」という姿勢に立った教えです。けれど仏教の平等はいわゆる西洋的な人間平等主義とは違い、「マイナスの平等」なのです。どんなにお金持ちでも、どんなに美男美女でも、どんなに社会的地位が高い人でも、みんな必ず年を取り、病気になって、死んでいく。以前お話した「四苦八苦」(人が生きていくうえで、避けて通れない「苦」を表した言葉)の「四苦」(生・老・病・死)ですね。生まれてくることも選べないし、みんな等しく死んでいく。
「八苦」はそれに4つ足して、「嫌な人とも会わなくてはいけないこと」「愛する人と別れなくてはいけないこと」「求めるものが得られないこと」「自分の心と体でさえ、自分の思い通りにならないこと」。これらは誰にも付きまとう、絶対に思い通りにならないことです。あなたが「充実していて素晴らしいな」「うらやましいな」と憧れるような人もすべて、この事実からは逃れられないわけです。
人生を曲線グラフのように考えてみましょう。縦軸が「手に入れたもの」、横軸が「時間の経過」を表すとします。「おぎゃー」と生まれた瞬間は、何も持たない、何も知らない状態でこの世に送り出されます。最初に出た「産声」という呼吸のみです。そこから言葉を覚え、学校に行って友達が増え、知識やお金も増え、人脈も増え……上へ上へと昇っていく。ですが、どこかで必ずピークが来て、下がります。会社を辞めてガクンと下がる。病気になってさらにガクンと下がる。どんどん、どんどん下がっていて、最後には死んでいく。「息を引き取る」と言いますが、最後に息もすべて置いて死んでいくんですよ。ゼロからまたゼロの状態へと戻っていく。
基準点をどこに置くかで
生き様は変わっていく
人生の基準点を考えようとするとき、大抵の人はグラフの頂点を基準点にしようとします。けれど頂点なんて一瞬ですし、通り過ぎたあとに「あのときだった」と気づくもの。それ以外の時期は常に未成熟で未発達で、「足りない」「失われた」不本意な状況ということになってしまいます。それは果たして正しいことでしょうか。
だからこそ僕は、みなさんに坐禅をしてほしいと思います。坐禅は年も性別も、社会的地位も技術も関係ない。ただぼーっと座り、「呼吸」があるだけの自分になる。ちょうど生まれた直後や、死ぬ直前と同じ状態です。そういう「呼吸だけの自分」に気づけて、その状態を基準点にできれば、あとの上乗せ部分はすべてオプションだといつの日か理解できると思います。「オプションだから、なくてもいい」とは言いませんよ。ないよりは、あったほうがいいし、あるならあるなりに楽しめばいいです。けれどないなら、ないなりに過ごすごとができる。
坐禅の体験とは、産声を上げてから息を引き取るまでの“人生のアイドリングの疑似体験”。この体験の中で、「今自分は呼吸ができている、生きているんだ」と感じることができれば、その他はすべて、基準点の上側の話なんだということが理解できます。そして坐禅をしているときに、「ゆったり、のんびりできているな」と感じられることがとても重要で、坐禅の意味は、そこにあると考えています。
「呼吸する自分」を感じ、
そのゆったりした気持ちを基準点に
私は時々、修学旅行の小学生に坐禅指導をすることがあります。その時にこういう話をします。
君たちはこれから人生の中で、たくさんのことを学び、友達を増やし、もしかしたらたくさんのお金をもらって、偉く立派になる人もいるでしょう。それはとても大事なことで、応援します。だけど、失敗することも、挫折することもあるし、最後は全部置いて、死んでいくということも事実です。
友達の数は100人になるかもしれないし、10人かもしれないし、ひとりかもしれない。100人の友達ができたら、その100人と楽しく過ごせばいいし、10人なら10人と仲良く過ごせばいい。ひとりしかいなかったら、その友人とじっくり付き合えばいい。誰も友達がいなくなったら、ひとりでのんびり本を読んだり、坐禅したり。「自分はここに生きているな」と今日確認できたんだから、その基準は大事にしてくださいね。
小学生でもきちんと理解して、話を聞きますよ。きっと周りには、そんなことを言う大人はいない。お坊さんくらいしか言わないから。でも、大切なことだから伝わるのだと思います。将来に希望が持てない、やる気が出ない。人生にはそういう時期もあることでしょう。そんなときにはぜひ、坐禅を体験してみてください。「呼吸する自分」というものをしっかり感じ、のんびり、ゆったりした気分を味わえれば、何かが変わると思います。
Have a try !
常にたし算でものごとを考える習慣を手放しましょう。坐禅の方法は曹洞宗HPにも
(https://www.sotozen-net.or.jp/sotozazen)