世界中から注目を集めている「禅」の思想を、
やさしい言葉で伝える活動をしている宇野全智さん。
心の問題にまつわる活動も多く、
生きづらさを抱えている人々に心が軽くなるメッセージを伝えています。
現代人が感じているさまざまな悩みに対し、
2500年の歴史を持つ仏教&禅宗の僧侶は
どんなアドバイスを伝えてくれるのでしょうか。
「周りに合わせて言葉を飲み込んでしまい、ストレスが溜まる」
家族間でも、職場でも、友人関係でも。言いたいことが言えず、いつも言葉を飲み込んでしまいます。自分の思いや意志を伝えられず、周りの都合に合わせてしまい、ストレスが溜まります。どうしたら自分の言葉をはっきり伝えられるのでしょう。
慈愛の心があれば大丈夫。
言葉は自然に溢れ出します
場の空気を読みすぎたり、相手の気持ちを気遣いすぎたりして、「どういう言えば正しいのだろう?」と言葉が詰まる方、多いですね。「こういう言い方をしたら誤解されるかも」「適切な言葉を使えるだろうか」と考えすぎて、口が重くなっている方もいらっしゃるかもしれません。「正しい言葉を使わねば」というプレッシャーが、スムーズな会話を妨げているように思います。
キリスト教のシスターで、上智大学グリーフケア名誉所長の高木慶子先生が、以前こんなことを話していらっしゃいました。東日本大震災のあとすでに多くの苦労を重ねている被災地の方々に、安易に「頑張れ」という言葉を使っていいのか……と問題になっていた時期のことです。「私は目の前の方と平寧にお話しして、その方に『頑張れ』という言葉が必要だと感じたら言いますし、そうでないなら言いません。言葉自体に良し悪しがあるわけではなく、発せられる状況によって意味は変わりますし、何より背後に思いやりの心があるかどうかではないでしょうか」と。
仏教に「愛語(あいご)」という考えがあります。悲しんでいる人、苦しんでいる人に手を差し伸べて助けてあげたいと願い、行動することを「利他行(りたぎょう)」と言いますが、その実践のひとつで、「慈しみの心で、優しい言葉を発すること」という意味です。高木先生の言葉に通じますが、内に慈愛の心さえあれば、言葉はコップから溢れる水のように、自然に出てくるもの。小手先ではなく、「伝えたいこと」の奥には、どんな思いがあるかを丁寧に考えてみてはいかがでしょう。
なかなか難しいことですが、それでも苦手な人を「この人も可哀そうな人なんだな、この人のこういうところが残念でもったいないなー」と切り替えることができれば、コミュニケーションの空気もまた、変わっていきます。あなたの内側が変化していけば、きっと言葉も自ずと溢れ出てくるのではないでしょうか。
人が聞いてほしいことは
「事柄(ことがら)」ではなく「気持ち」
僕は自死遺族の方々と関わる活動を10年以上続けています。大切な方を失った悲しみは、人生最大の苦痛と言ってもいいかもしれません。辛い思いをされた方が口を開くのは大変なことで、長い長い沈黙を前にすることも多いです。当たり前のことですが、悲しみの表現は本当に人それぞれ。こうした活動を続けているうちに思い至ったのは、人が本当に言いたいこと、聞いてほしいことは、「事柄」ではなく「気持ち」ということです。そしてそうした「気持ち」を素直に話せる場というのが、この社会においては驚くほど少ないという事実です。
四十九日や三回忌といった法要でも、喪主の方に「今どんな気持ちですか?」と伺います。「まだ全然気持ちが追い付かなくて」という方がいれば、「やっと受け止められました」という方もいる。反応は人によって違います。それに対し僕は、「そうですか」と、相槌を打つくらい。ただただ、その「気持ち」を受け止める。そうすると、ふっと相手の方の空気がゆるむのを感じます。
僕たちの日常の言葉のコミュニケーションは、ほとんど「事柄」を中心に回っています。職場で「あの仕事はどうなった?」とか、家庭で「今日は晩ごはんいるの?」「学校で何があったの?」とか。けれども、本当に聞いてほしいのは「気持ち」なんですよね。誰かと話しをするときに、「事柄」というオブラートに包むことなく、「気持ち」をダイレクトにやり取りできることが、どれほど心地いいものか。まずはそのことを知っておいてほしいと思います。
今、あなたの隣にいる人に
「どんな気持ち?」と尋ねてみる
「いやいや、気持ちのやり取りなんて、難易度高すぎる!」という方も、もちろんいることでしょう。そういう方に、いちばん簡単でおすすめしたいのは、目の前にいる人に「今、どんな気持ち?」と聞いてみること。普通に、何の前置きもなく、問いかけてみてください。
最初は「何?突然」と戸惑っていた相手も、「今ちょっとイライラしているかも」「少し気になることがあって……」と、ポツポツしゃべり始めるかもしれない。それをあなたも、ジャッジせずに、淡々と「そうなんだ」と受け止める。そして「何か心配事でもあった?」と話を続けてみれば、次第に相手が心を開いていくかもしれません。
「自分の話をもっと聞いてほしい」と相手の言動に期待するより、まずは自分から「どんな気持ち?」と尋ねることから始めてみてはいかがでしょうか。不思議と空気が変わりますよ。そうしていくうちに、相手からも「あなたはどう思う?」という言葉が生まれてくるかもしれません。
Have a try !
そこからコミュニケーションが始まります。坐禅の方法は曹洞宗HPにも
(https://www.sotozen-net.or.jp/sotozazen)