ミニマリストが選んだ「物」とストーリー

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広瀬裕子の「わたしが整う日用品」 file.10
「新しい『美』の風呂敷」


ミニマルで上質な暮らしが人気を集めるエッセイストの広瀬裕子さん。
驚くほど物を持たない広瀬さんが、手放さずに使い続けている物、新たに手に入れた物とは?
「本当に好きなものを少しだけ、大切に使う」という広瀬さんの審美眼に叶った
日用品の物語を綴ってもらいます。

Text&photo : Yuko Hirose
Edit : Ayumi Sakai

デザインの魔法

何十年かぶりに風呂敷を手にしました。

以前、風呂敷を使っていたのは、着物をよく着ているころでした。無地のグレー、正絹の風呂敷を愛用していました。わたし自身が変わり、着物を着る機会が減ってからは、それに伴い風呂敷を使う機会も少なくなりました。

手にする回数が減ったのは、洋装には合わない、というのがあります。カジュアルな服装だと、どうしても浮いてしまうのです。そんなこともあり、いつのまにか風呂敷は、わたしの暮らしから消えていきました。

いまも、着物を着ないことは変わりないのですが、風呂敷の便利さを思い出す機会が幾度かありました。

例えば──。出先で購入した物をさっと包む。観劇の際かさばるコートをコンパクトにまとめる。寒い時は羽織りものとしてふわりと羽織る。どの場面も、歳上の方たちが、バッグから風呂敷を取り出し、したことです。

その一連の所作が、流れるようで、とてもすてきでした。それから「わたしに合う風呂敷があれば」と思うようになったのです。

手にしたのは、書体がプリントされている風呂敷です。白地に黒の文字。そこには──美──とあります。化粧品メーカーの書体に使われている文字がプリントされた風呂敷です。

はじめて、この風呂敷を目にしたとき「昔からある物が、デザインという魔法にかかり、よみがえった」と思いました。書体のうつくしさ、デザイン、色のうつくしさ、文字が持つ意味。それらが重なり「美」という風呂敷になっています。

最初は「美」という文字に、気恥ずかしさを感じざるを得ませんでした。けれど、使いはじめると、包んでしまうのでまったく気になりません。モダンなデザインのように映ります。洋装でも違和感なく使えます。

素材は、ポリエステル。気兼ねなく使用できる点も便利です。

美とは? うつくしい立ち居振る舞いとは? その人らしい佇まいとは? そんなことを思いながら、毎日のように、手に取ります。


< 今日の「ご褒美」 >
いままで「おいしい」と思わなかったものが、
ある日「おいしい」と分かるようになることがあります。
わたしにとって、日本酒がそういうものです。
日本酒すべてにおいしさを感じるかはまだ不明です。
日本酒の入口に立ったばかり。仕事がひと段落した日の夜にほんの少し。
「今日のご褒美」と思いながら口にします。
(大嶺酒造)

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