揺らいだ日も、頑張った日も。
MIND
俗世から浄化され、無心の境地へ。
2026.04.15
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辛酸なめ子の「心と体がととのう・禅体験ルポ」 vol.3「最高の修行だと思いながら内側からととのった『行茶』」

辛酸なめ子の「心と体がととのう・禅体験ルポ」 vol.3「最高の修行だと思いながら内側からととのった『行茶』」

日頃から“無心の境地”を目指しているという
漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんが曹洞宗の修行道場にて禅体験。
禅僧・宇野全智さんに、個人的な悩みを相談しながら
坐禅、写経、行茶を体験した様子を全3回に渡ってルポルタージュ。
最終回のvol.3は行茶編です。

Photo : Kohei Yamamoto
Edit:Ayumi Sakai

お茶とお菓子をいただく時間が
修行になるなんて最高です

曹洞宗の修行道場「微笑庵」での禅体験・最後のしめくくりは「行茶(ぎょうちゃ」です。坐禅や写経は知っていても「行茶」とは初めて聞く名前。禅僧の宇野全智さんに伺うと「修行としてお茶を飲む行為です」とのこと。お茶タイムが好きな身としては、煩悩ではなく修行になるなんて、曹洞宗の理念が最高だと思えてきます。

私の煩悩のうちの一つは「お茶欲」で、ほぼ毎日コーヒーショップやカフェでドリンクを買ってしまうのですが、曹洞宗はそんな欲望も優しく包み込んでくれるように感じます。

「お茶というと抹茶をイメージされるかもしれませんが、修行道場で数百人もいる修行僧が抹茶を立てると手間や時間がかかってしまう。それに抹茶は贅沢品です。そのため私が修行していた道場では、ほうじ茶を用いていました。

修行僧自身がローストすることもあり、安い茶葉でもおいしく飲めます。大きな行事のときはお菓子も出ますよ」とのことで、ほうじ茶とお菓子が時々いただけるなんて、ますます最高です。

もちろん普段の修行は厳格だと思われますが、行茶というリラックスタイムがあるだけでもだいぶ違います。修行僧がローストした茶葉にもプライスレスの価値が。

お茶に敬意を表する所作を体験。
カフェでも試したらおいしくなりそう

宇野さんのナビゲートのもと、さっそく行茶体験させていただきます。まず、部屋の向こうからお盆を持ったお給仕係のお坊さんがしずしずと入ってきました。お茶碗の中には、懐紙にのったお菓子(この日は甘納豆)が入っていました。

合掌して左手をお盆に添えて、右手でお茶碗を受け取ります。お茶碗から懐紙とお菓子を出して横に置きます。次に、お茶碗にほうじ茶を注いでもらいます。合掌と礼をしてお茶碗を持って前に出します。注いでもらってちょうどいいところで、右の手のひらを上に上げて合図。

無言で合図なんて恐れ多い気もしますが、こうすることでムダなくちょうどいい分量を飲むことができます。合図がなければ給仕係は注ぎ続けるので、必ず手を上げて止めてもらうのがポイント。

全員分、お茶とお菓子が揃ったところで合掌。お茶碗を、親指人差し指中指の 3 本指で両側から挟み込むように持って額の高さに掲げます。こうやって押しいただくことでお茶に敬意を表するそうです。今後カフェでドリンクを飲むときも、随時合掌したり、掲げ持ったりしたら、味もおいしくなる気がします。

無心でありがたく味わいながらも
湧き上がる邪念

ちなみに修行道場でのお茶は、ダラダラ飲まず周りに合わせてスピーディーに飲むそうです。飲み干したら、おかわりのお茶も来るのですが、そのときも右手を上げてちょうどいい量でストップします。

坐禅の時間の延長なので基本的に私語はなしで、無心でお茶を飲み、ありがたく味わいます。大体10分から15分というひとときの行茶タイムですが、内側からもととのう感じがします。

宇野さんは、寒い日におすすめの飲み物を教えてくださいました。
「皮ごとすりおろした生姜に和三盆を入れて煮出して、葛でとろみをつける。甘くて辛くてあったまってすごくおいしいですよ。12月の修行期間中、朝に出たりするんですけど、ごちそうですね」

それはチャイみたいでまちがいなくおいしそうです。ただ、生姜をすりおろし、煮出す、という行為も私にとってハードルが高いので、ぜひ溶かせば再現できる粉を出してほしい……と思いがよぎりました。

禅のていねいなライフスタイルからは程遠いです。でも「曹洞宗の朝の生姜ドリンク」というフレーズで売り出したら売れるのでは、とまたもや邪念が湧き上がりました。

禅の風習は優しくサスティナブル。
不安だった自分の未来に一筋の光が

宇野さんには、禅寺での漆塗りの食器セット(応量器)という貴重なものも見せていただきました。漆塗りの入れ子の器がおしゃれで物欲が刺激されます。結構いいお値段がするそうですが、食器は丁寧に使われ、精進料理で油ものもないので、洗剤で洗う必要もなく、長持ちしそうです。禅のスタイルは地球に優しくサスティナブルです。

ごはんの途中で給仕係が米粒を少しずつ回収にきて、集めた全員分の米粒を台の上に置くと、小鳥がそれを食べにくる、というお裾分けの風習もあるそうです。地球にいただいたものを一部お返しして、循環させる、素晴らしい習慣です。

本来は、誰にもご供養してもらえない霊たちにお裾分けする、という意味があるとのこと。この話を聞いて、もしかしたら誰にも供養してもらえないかもしれない自分の未来に一筋の光を感じました。生きているときも、死んだあとも、魂が迷ったらぜひ禅寺に立ち寄らせていただきます。

禅僧の作法に習う修行体験はこちら
https://otonami.jp/experiences/sotoshu/

profile:

辛酸 なめ子

漫画家、コラムニスト。
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。
恋愛、女性の生き方、スピリチュアル、アート、皇室など幅広いテーマで執筆。
雑誌や新聞、webメディアなどで数多くの連載を持つ。
『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のマナー術』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、
『川柳追体験 江戸時代 女の一生』(三樹書房)など著書多数。

プロフィール写真 ⓒKohei Yamamoto

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