揺らいだ日も、頑張った日も。
MIND
ミニマリストが選んだ「物」とストーリー
2026.01.01
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広瀬裕子の「わたしが整う日用品」 file.12「こころを満たす応量器」

広瀬裕子の「わたしが整う日用品」 file.12「こころを満たす応量器」

ミニマルで上質な暮らしが人気を集めるエッセイストの広瀬裕子さん。
驚くほど物を持たない広瀬さんが、手放さずに使い続けている物、新たに手に入れた物とは?
「本当に好きなものを少しだけ、大切に使う」という広瀬さんの審美眼に叶った
日用品の物語を綴ってもらいます。

Text&photo : Yuko Hirose
Edit : Ayumi Sakai

「うつくしさ」と「叡智」を暮らしの中へ

海辺の町で暮らしていた20年前、坐禅に通っていたことがあります。木々のなかに佇むのは、京都から移築された建物。そのなかで坐る時間は、こころ落ち着く時間であり、時に眠気に抗う時間でもありました。

応量器というものがあることを知ったのも、そのころです。禅宗の僧がお寺での修行の際、持参する器だと教えていただきました。応量器と、必要最小限のものを入れた袈裟行李(けさごうり)だけを持ち、修行僧はお寺に入るそうです。

はじめて応量器を目にした時「うつくしい」と思いました。使い方や収まりに対し「理にかなっている」と感心しました。「このうつくしさと叡智を暮らしのなかに取り入れたい」。そう思い、応量器を手にしました。

応量器は、漆でつくられています。それもあり、安価ではありません。でも、ひとりの僧が一生使いつづけられるようにつくられています。直しながら使いつづけられるように考えられているのです。

わたしも、一生、ひとつの応量器を使いつづけよう。そんな思いで、実際に永平寺で使用されている応量器を迎いいれました。

使いはじめてわかったのは、応量器はお粥を食すのに適しているということです。本来、そういう使い方をされているので当然なのですが、やわらかいご飯を匙で、が使いやすいように感じます。

体調管理を兼ね、時々、お粥だけの食事にすることがあるのですが、そういう時は、応量器にたっぷりのお粥を盛りつけ、香の物を添えます。もちろん、自由に使うこともあります。シンプルな和食の献立が応量器には合いますね。

不思議なことに、献立が簡素でも、質素でも、応量器での食事はさみしくなりません。元々「そういうもの」と捉えているからかもしれません。または、漆の力なのか、形のうつくしさなのか。理由はわかりませんが、いつもとはちがう満たされ方をします。

もしかすると、以前、坐っていた時の風の流れや木々のざわめきがよみがえってくる──からなのかもしれません。


< 今日の「ご褒美」 >

わたしにとって着物は特別です。
着物を着る日は、お祝い事や節目と言った「よきこと」がある日。
髪を整え、着つけをしていただき、支度をする。
着物だけでなく、準備の時間もご褒美です。

profile:

広瀬 裕子

エッセイストとして、雑誌やウェブメディアなどにコラムを執筆。
書籍も定期的に上梓している。
設計事務所の共同代表も務め、空間デザイン・ディレクターとしても活動。
東京に生まれ育ち、葉山、鎌倉、瀬戸内に移り住んだ後、2023年より東京在住。
近著に『60歳からあたらしい私』(扶桑社)。

インスタグラム:@yukohirose19

プロフィール写真 ⓒKohei Yamamoto

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