揺らいだ日も、頑張った日も。
MIND
俗世から浄化され、無心の境地へ。
2026.03.15
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辛酸なめ子の「心と体がととのう・禅体験ルポ」 vol.2「尽きない煩悩は『写経』でどうなる?・・・仏の道は無上」

辛酸なめ子の「心と体がととのう・禅体験ルポ」 vol.2「尽きない煩悩は『写経』でどうなる?・・・仏の道は無上」

日頃から“無心の境地”を目指しているという
漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんが曹洞宗の修行道場にて禅体験。
禅僧・宇野全智さんに、個人的な悩みを相談しながら
坐禅、写経、行茶を体験した様子を全3回に渡ってルポルタージュ。
vol.2は写経編です。

Photo : Kohei Yamamoto
Edit:Ayumi Sakai

「物欲が強くて部屋が片付かない」。
煩悩にまみれた私の悩みに禅僧は……

不惑の年を超えても悩みが多い人生を送っています。曹洞宗の修行道場「微笑庵」にて禅体験をさせていただくシリーズの2回目は「写経」。引き続き禅僧の宇野全智さんがご指導ご鞭撻してくださいます。

これまで何回か「般若心経」を写経したことがありました。結構長文なので時間を要するのですが、あるときは夜、お寺の地下で写経していて、近くに納骨の部屋があったので怖くてかなりの速度で書き進めてしまいました。今回は明るくて良い気に満ちている部屋なので、落ち着いて写経できそうです。

あらかじめ宇野さんに不祥私のお悩みをお伝えしていました。物欲が強くてすぐ服や雑貨を買ってしまう、というのと、物が多くて部屋が片付かない、というお悩みです。とくに本や雑誌、資料などがやたら多くて積み重なって雑然としていて、視界に入るたびにエネルギーが吸い取られています

禅僧である宇野さんはきっと整理整頓された家に住まれているのだと思います。部屋が雑然としていると、部屋がきれいそうな人と会うと、つい「自分なんて……」、と卑下して自己肯定感も下がってしまうのでなんとかしたいです。

そんな風に思っている私に宇野さんは、「わかりますよ。文章とかイラストとか、書くお仕事だとどうしてもごちゃごちゃしてしまいますよね。実は私もそうなんです。禅僧のくせに片付けは本当に苦手で・・・(笑)。ですので、『この人も禅僧の割に私と一緒なんだな』と思って、安心してお話ししてください」と、なんとも温かくありがたいお言葉をかけてくださいました。

そして、「最近断捨離したくて服をたくさん売ったり処分しているのですが、まだ減らないです。本や資料も大量にあってごちゃごちゃしています」と相談すると、「その、処分したときってどんな気持ちになりましたか?」と聞かれました。

「買取ショップに持って行って、ほとんど値段がつかなかったんですが、やっぱり爽快感がありました」
「愛着のあるものはなかなか手放せない、という人も多いです。でも、リサイクルに出せば、他の人がそれをまた使ってくれるかもしれない。そう思うと手放しやすいですよね」と、宇野さん。

確かに、人からもらったコラボのスポーツウェアを思い切って出したら、意外と値段がついて嬉しかったです。まだ市場でもニーズがあるので、誰か別のもっとスポーティな人が活用してくれる気がします。

何かを手放したら、
もっといいものが引き寄せられる?

「『放てば手に満てり』という禅の言葉があります。何かをギュっと握りしめて、これは私の物って思っていると、新しい物を手に入れることができません。手放したときに見えてくるものもあります。そして空間が空くことによって、その場を心地よくすることができます。新しい可能性も広がってきて、新たな循環が生まれます

物品を整理するだけでなく、人間関係を手放すときもあります。部屋を断捨離®していると、不思議と人間関係も一緒に整理されていくように感じます。一抹の寂しさはありますが、また新しい縁に恵まれるかもしれない、とポジティブに捉えることができます

「いつか使うかも、と思ってとっておくのは、その物に縛られて執着している状態でもあります。それはやっぱり過去なんですよね。手放すことで、自然と自分の未来について考えることになります」

宇野さんには強制的に手放すような体験もあったそうです。
「パソコンで文章を書いていたらデータが飛んでしまって、集めた資料も全部消えてしまったことがありました。でも、もう一回資料を探すと、もっと別のいいものが手に入って、これまでと違う視点が開けました」

私はまだそこまで達観できませんが、何かを手放したら、もっといいものが引き寄せられる、と信じたいです。もしかしたら大量にある資料や本も、国会図書館に収められていると思って手放してもいいかもしれません……。

禅の究極の考え方に触れ
片付けのモチベーション高まる

「禅の世界で自分というものをどう考えるか、自己認識の問題があります。普通は、パフェを作るみたいにどんどん足していく。そうすると、リストラされたとか、友達がいなくなったとか、何かがあると土台から崩れていってしまいます。こんなの私のパフェじゃない、となる。

でも、禅では自分って何者なの?っていうとき、引き算していく。そうやってどんどん引いていって最後に残るのが呼吸なんですよ」と、宇野さんは究極の真理を教えてくださいました。

大事なのは、その基準の呼吸だけがある状態で、私、ちゃんとここに生きてるんだなって実感を持っているかどうか。それを体験できるのが坐禅の時間なんです。

坐禅をしてるときって年齢も関係ないし、体力も関係ないし、経済力も関係ないし、友達の数も関係ないですよね。一人ですわって穏やかに呼吸して気持ちよくすわっていられる自分がいる、ということがありがたいんです」

その坐禅をする場所がごちゃごちゃしてなくて整った空間かどうか、というのも重要です。さらに断捨離®や片付けのモチベーションが高まりました。

修行者が唱える4つの願いを写経。
最高な字を書けた気がしたけれど…

ここで宇野さんは、私の悩みに合わせた言葉を教えてくださいました。今回写経させていただくのは……
「四弘誓願という短いお経です。今日、これを書いてもらいたいなと思って選びました。仏教の修行者が唱える4つの願いです。

意味は、まず1 行目は、私の助けを必要としてる人は数えきれないほどいるけれど、その中で 1人でもその人たちの助けになれるよう誓って願います。

2行目は、自分の心の中に出てくる煩悩や悩みは尽きることはないけれども、それを少しずつでも断っていけるよう誓って願います。

3行目は、仏の教えは計り知れないぐらい多いけれど少しでも学んでいけるように誓って願います。

4行目は、私たちが素敵な自分になるための道は終わりがないけれど、少しずつでも成し遂げられるよう誓って願います、という、結構優しい言葉ですね」と、宇野さんはわかりやすく解説してくれました。

四行と短く、内容も無理がなく、マイペースで仏の道を歩んでいけそうです。
「衆生無辺誓願度  煩悩無尽誓願断  法門無量誓願学  仏道無上誓願成」

長文の般若心経のように速書きすることもなく、息をととのえてゆっくり写経させていただきました。ふだん、かなり字が汚くて自分のメモも解読できないくらいなのですが、ここ数年で最もちゃんとした字を書けた気がします

一瞬満足しかけましたが、用紙をめくってなぞったお手本の字を見たら、カッチリしていて、ゴシック体と明朝体くらいの差が。本物は10倍くらい整った文字でした。仏の道は無上で終わりがありません……。

優しく思えて厳しい道だと身をもって実感しました。

禅僧の作法に習う修行体験はこちら
https://otonami.jp/experiences/sotoshu/

profile:

辛酸 なめ子

漫画家、コラムニスト。
1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。
恋愛、女性の生き方、スピリチュアル、アート、皇室など幅広いテーマで執筆。
雑誌や新聞、webメディアなどで数多くの連載を持つ。
『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のマナー術』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、
『川柳追体験 江戸時代 女の一生』(三樹書房)など著書多数。

プロフィール写真 ⓒKohei Yamamoto

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