腸から心を整える

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京都府立医科大学教授・内藤裕二さん vol.1
実は深い心と腸の関係


「なんとなくやる気が出ない」「理由はわからないけど心が不安定」といった心の問題……。
私たちAWAI LIFEは、心と身体の関係性にも注目していますが、
近年、腸は「第二の脳」といわれ、脳とも密接につながっていることがわかりはじめています。
脳と腸の関係が深いのなら、腸は心の作用とも関係あるのではないか?
そんな疑問から、腸内細菌の研究の第一人者として知られる
京都府立医科大学教授の内藤裕二先生に、心と腸にまつわるお話を伺いました。

Photo : Kohei Yamamoto
Text : Takuro Nakamura
Edit : Osamu Ogura

脳や身体をコントロールしているのは腸内細菌

ストレスを感じるとお腹が痛くなったり、下痢や便秘気味になったり……。きっと誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。これは脳の状態が腸に影響を与える例の一つで、脳がストレスや不安を感じると、腸の機能に影響が出る現象とされています。しかし、近年は、腸のほうからも脳に影響を与えており、何らかのコントロールをしていることがわかりはじめているのだそう。

実際、大学や製薬会社の研究機関による最新の研究では、腸で生じたさまざまな生理的、病理的な変化が脳へと伝えられて、脳の情報処理機能に影響を与えることが明らかになっているのです。例えば、新型コロナウイルスの後遺症として話題となった「ブレインフォグ(頭にモヤがかかったようにぼんやりする状態のこと)」にも、腸内環境の乱れが関わっていることがわかっています。

腸内細菌研究者の内藤先生によれば、腸と脳は、相互に情報の伝達や交換を行い、互いに作用を及ぼし合う「腸脳相関」という関係にあるとのこと。そして、この「腸脳相関」で重要な役割を果たすのが「腸内細菌」だといいます。

私たちの腸内には、腸内細菌がおよそ1000種類、100兆個も生息しています。これを「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」または「腸内フローラ」と呼び、その構成は食生活や年齢などによって一人ひとり異なっているといいます。これら多様な腸内細菌は互いに密接な関係を持ち、複雑にバランスを取りながら、私たちに影響を与えているのです。

「仕事のパフォーマンスが落ちたり、うつ気味になったり。脳の異常によって問題が起きるのは事実ですが、最近ではそうした脳の異常も、腸内細菌が操っていることがわかりはじめているんです」と内藤先生。例えば「ストレスを感じる」とは、一般に、脳がストレスの度合いを測定して、他の臓器に影響を与えていると思われがちです。しかし、実は脳よりも先に腸内細菌がストレスの判定をし、情報を脳に送っているといいます。脳だけでなく、腸が脳や体をコントロールしているのだそう。

「人間の身体は、臓器と臓器が迷走神経を通じてシグナルを伝え合いながら、コントロールしています。脳だけ、腸だけではなくて、脳と腸の相互作用を利用して、健康を維持するというのが大切なのです」

腸内細菌バランスの乱れは精神状態に影響する

では、心と腸はどう関係しているのでしょう?内藤先生は「脳と密接に結びついた腸や腸内細菌は、心の不調や精神疾患にも深く関係する」といいます。例えば「不安行動」。特定の遺伝子やヒトの疾患に似た症状を持つモデルマウスを使った実験では、腸内細菌のいない無菌状態のマウスは精神的に不安定で、過敏な反応をすることがわかっており、その無菌マウスにビフィズス菌を与えると不安行動が減るといった実験結果が得られているのだそう。また、「4EPS(尿毒症物質)」と呼ばれる腸内細菌に由来する代謝物が、情報処理や伝達を司る神経細胞であるニューロンの相互作用を減少させ、不安行動を引き起こすことがわかってきているのだとか。これはあくまでマウスを使った実験ですが、腸が脳に影響する原因を示すものです。

さらに、うつ病との関係も明らかになりつつあると内藤先生。うつ病患者には下痢や便秘などのお腹のトラブルを抱えている人がたくさんいるそうですが、腸内細菌バランスの乱れからくる腸内の炎症物質の増加が、精神状態に悪影響を与えている可能性があるといいます。また、うつ病に関連しているとみられる特定の腸内細菌(モルガン菌)も明らかになりつつあり、うつ病に対するより効果の高い治療法の開発に明るい兆しが見えているとのこと。

現在、不安行動やうつ病を改善する方法の一つとして、腸内環境の改善によってセロトニンを増やす方法があります。「しあわせホルモン」とも呼ばれるセロトニンは、他の神経伝達物質の調整をし、心を落ち着かせ、精神を安定させることで知られます。

そんなセロトニンにも、腸内細菌の働きが欠かせないそう。「まず腸内細菌の働きによって、食事から摂取した必須アミノ酸からセロトニンのモトが作られます。それが脳に届くとセロトニンとなり、リラックス感や幸福感などの感情を発生させます。つまり腸内環境が良いと十分な量のセロトニンとなるモトが脳へ送られるため、セロトニンが増えて精神状態が安定するんです」と内藤先生。

ほかにも、セロトニン同様に精神を落ち着かせる効果のある神経伝達物質としてGABA(γ-アミノ酪酸)が挙げられるそう。GABAは腸内細菌によって作られるもので、GABAが含まれる食品やサプリ等の摂取に頼るだけでなく、「GABAの材料となる成分」=野菜や果物、発酵食品などを摂り、腸の働きで必要量のGABAを作り出すことも大切で、高い効果が得られるといいます。

健康な腸が、健康な脳やメンタルをつくる

これらはほんの一例ですが、このように腸や腸内細菌が脳や神経伝達物質に作用していることがわかりはじめています。そして、腸は心の健康にも大きく影響しているそう。

「マウスを無菌の環境で飼うと、癌にもならないし、糖尿病にもならないのですが、脳だけ成熟しないんです。喧嘩っ早くて、興奮気味のマウスになってしまう。我々も腸内細菌なしには、脳は成熟できない。そういう意味では、健康な腸であることが、健康な脳やメンタルをつくると思っています」

2回目(3月7日配信)は、「睡眠と腸の関係性」について解説していただきます。  

近著『健康の土台をつくる 腸内細菌の科学』(日経BP)は、
「肥満や老化も腸内細菌が左右する」、「自分の腸年齢の簡易的な計算法」など、
腸内細菌の最前線をわかりやすくまとめた一冊です。
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