腸から心を整える

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京都府立医科大学教授・内藤裕二さん vol.2
良質な睡眠は腸から


心の調子に影響を与える睡眠の質にも、
腸内細菌が関係していることがわかってきています。
睡眠不足の蓄積が心の不調を引き起こす「睡眠負債」も、
腸を整えることで解決できるかもしれません。
今回は、内藤裕二先生に睡眠と腸にまつわるお話を伺いました。

Photo : Kohei Yamamoto
Text : Takuro Nakamura
Edit : Osamu Ogura

心の不調につながる睡眠負債

近年は「睡眠負債」という言葉をよく耳にします。「睡眠不足の借金」とも言われる睡眠負債とは、慢性的な睡眠不足が蓄積されて心身に支障をきたしている状態のことです。自覚症状を感じにくいのも特徴だそう。放っておくとストレス耐性や感情コントロール機能の低下をもたらし、うつ病や燃え尽き症候群につながるといいます。

十分に寝たつもりなのに、日中メリハリが出ず、なんとなく感情が不安定……、といった状態は、睡眠負債が溜まっている証拠かもしれません。
「睡眠負債は、忙しい日々を送る人にとって溜めてしまいがち。実は腸内環境を整えることが、睡眠負債の解消と心の安定につながっています」と内藤先生。

睡眠負債を減らすためには、十分な睡眠時間を確保することが重要だといいます。しかし、忙しい毎日の中、短い睡眠時間でも健康的かつ活動的な生活を送れるように、睡眠の質を向上させることも必要だそう。そして睡眠の質には、腸内環境が大きく関わっているのだとか。

「睡眠の質が悪い状態というのは、腸内環境のせいかもしれないということもわかってきています。睡眠にとっても、腸内環境はとても重要なのです」

腸内細菌が睡眠の質を左右する

良質な睡眠には「メラトニン」の分泌を促すことが欠かせません。「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンは、夜間に脳の松果体で分泌され、自然な眠りを促す働きがあります。このメラトニンが不足すると、寝付きが悪くなったり、深い睡眠が妨げられたりするのだとか。

メラトニン生成の原料となるのは、必須アミノ酸の一種「トリプトファン」。トリプトファンは、体内では合成されず、主に肉や魚、乳製品や大豆製品などの食品から摂取しているとのこと。トリプトファンからメラトニンを生成する過程では、腸内細菌が大きな役割を担います。

まず、トリプトファンを含む食品のタンパク質が、腸内細菌によって合成・分解され、トリプトファンとして吸収されます。さらにこのトリプトファンは、腸内細菌やビタミンB6などの力を借りて、セロトニンの原料に変換された後に脳に送られ、セロトニン、そしてメラトニンへと合成されるのです。

このとき腸内環境が乱れていると、せっかく摂取したトリプトファンのほとんどは腸内細菌叢によって食べられてしまい、メラトニンが十分に分泌されないのだそう。そのため、睡眠の質を上げるためには、トリプトファンを多く含む食品を摂ることに加えて、腸内細菌を整えておくことが必要だといいます。

< メラトニンができるまで >

「親時計」と「子時計」二つの体内時計をリセットする

十分なメラトニンの分泌を促し、良質な睡眠を得るためには、「体内時計」をリセットすることも重要です。体内時計は約1日周期でホルモン分泌や自律神経の働きを調整する仕組みのこと。私たちの体は、朝に体内時計がリセットされ、その15~16時間後にメラトニンが分泌される仕組みを持っています。体内時計が適切にリセットされないと、夜間にメラトニンの分泌が遅れたり、分泌量が不足したりするのです。

「地球の1日は24時間ですが、私たちの概日リズムは24時間15分~45分といわれていて時差があります。だから体内時計を規則正しくリセットしないと、時差ボケになってしまい、睡眠の質も下がってしまうのです」

体内時計には、「親時計」と「子時計」の二種類があり、それぞれ別のメカニズムでリセットされるといいます。親時計はいわば「脳の時計」で、脳が光を感じることによってリセットされます。視神経が交差する場所にある視交叉上核という部位で、朝の光を感じることによって親時計がリセットされるのだそう。親時計を規則正しくリセットするためには、「毎日同じ時間に起きて朝日を浴びる」ことが何よりも大事だといいます。

一方、子時計はあらゆる臓器が持っている「末梢時計」のこと。子時計は光ではなく、朝食によってリセットされると内藤先生。鍵となるのが「インスリン」。インスリンとは、食後に血糖が増えると膵臓から分泌されるホルモンのことです。インスリンは食後の血糖値を一定に保つ働きを持つと同時に、時計遺伝子にシグナルを送って体内時計をリセットしてくれるといいます。

「腸内細菌が乱れていると、このインスリンの働きが効きにくい状態を引き起こし、体内時計が上手くリセットされません」

子時計のリセットには、起きてから1時間以内、かつ毎朝決まった時間に、栄養たっぷりの朝食を食べることが効果的なのだそう。これによりインスリンの効率が高まり、少ないインスリン量で自律神経のバランスが整いやすくなるのだとか。 「末梢型の子時計を活性化するためには、食物繊維と炭水化物を朝に摂る、ということが大事です」と内藤先生。
また、昼ごはんや夜ご飯もなるべく決まった時間に食べるのが良いそうです。

< 体内時計のイメージ >

高脂肪食を控えて睡眠の質を上げる

加えて、高脂肪食を控えることも、体内時計を整えて睡眠の質を上げる方法の一つとのこと。高脂肪食は体内時計を乱すのだとか。連続して高脂肪食を与えられたモデルマウスの実験では、満腹感を誘発して食事摂取をコントロールする迷走神経に異常が起こり、体内時計が乱れてしまう、といった結果が出ているのです。

高脂肪食を減らし、体内時計を正常に戻すための方法の一つが「ファスティング」だそう。ファスティングは断食や絶食を意味し、多くは固形の食べ物を半日~数日間摂取しないことを指します。

「食べ物の摂取を控える」、もしくは「食事をする時間を整える」ことで、胃腸などの器官を休め、消化・吸収に使われていたエネルギーが体の疲労回復などに回ります。これにより内臓が休まり、体内時計のうち子時計のリズムが整うのです。

また内臓が休まることで、老廃物や毒素を排泄する働きが強化され、デトックス効果や腸内環境を整える効果も。セロトニン分泌やメラトニン分泌にも良い影響を与え、睡眠の質を向上させることにつながるといいます。

3回目(3月22日配信)は、腸内環境を育てる食事法について解説していただきます。

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