「ペンギン ブックストア」選・今月の一冊 #10

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『ワーカーズ・ダイジェスト』
津村記久子・作/集英社


書店に来られるお客さまから、
「元気がないときに、おすすめの本はないですか?」と訊かれることが、
よくあります。そんな方には、「元気が出る本」ではなく、
「元気がなくても楽しめる本」をご紹介しています。
自分の気持ちに寄り添ってくれて、硬くなった心をほぐしてくれる文章が、
見つかるかもしれません。

Text : Minobu Tateishi(Penguin Bookstore)
Edit : Ayumi Sakai

自分だけの「スパカツ」を探したくなる
〝まあまあ″の人生を生きる私たちの、お仕事応援小説

社会人になって初めのころは、失敗して落ち込んだり、自分のダメさ加減にブルーになったり、ということが多いけれど、7、8年たって仕事に慣れてくると、ほかの悩みが増えてくるものですよね。この小説の主人公たちも、まさにそう。

ある日仕事で出会い、誕生日と名字が同じだということがわかって親近感を抱いた二人の男女。もう会うこともないと思いながら、お互いに「なんとなくたまに、一瞬思い出す」存在に。仕事や人間関係に疲れきっている二人の日常が、ていねいに優しい目線で綴られています。

取引先やクライアントに、理不尽な要求やクレームを突きつけられたり。同僚から理由もなく、不機嫌をまき散らされたり。ずっとつき合って来た相手と別れたり。いろいろある毎日を、何とか折り合いをつけながら生きていくのです。

読んでいるうちに、「そうだよね、起きて仕事に行けているだけで立派だよ!」と、自分にも優しい言葉をかけたくなるのが不思議。毎回、「これは私の物語だ」と思わせてくれる。津村さんの小説は「普通の人」の味方だなぁと思います。

「苦情を言われたり、おとなしくしているとどんどん仕事を押し付けられたり、何より毎朝の出勤が辛いけれど、でもそんなに悪くもないと思う。好きなものが食えて、そこそこいい思い出もいくつかあって、三が日に会う予定の友達もいる。そんなもの子供の時とほとんど変わらないじゃないか、と言われたらそうなのだが、それの何が悪いのだろう。」

私達は、明日も100点とは程遠い「まあまあ」の人生を生きていくしかないのです。主人公たちが通う定食屋の「スパカツ」みたいに、ささやかな楽しみを見つけながら。
ラストは何かが始まりそうな、ほんのり明るい予感がします。

読み終えたとき、「私の書店も、誰かにとってのスパカツ的な存在になれますように」という贅沢な願いがひとつ、生まれました。

『ワーカーズ・ダイジェスト』
津村記久子・作/集英社

作者は、自身の会社員時代の経験を元にした作品が多い津村記久子。
表題作は『小説すばる』で2010年に連載され、第28回織田作之助賞を受賞した。
主人公は、大阪のデザイン事務所に勤務しながら、
副業としてライターの仕事をしている奈加子と、東京で建設会社に勤める重信。
人間関係の悩みや仕事のストレスを抱えながら生きる30代の男女の日常が、淡々とユーモラスに描かれている。
文庫版には、あとがきとして益田ミリのマンガが掲載されている。

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