「こころの本屋」選・今月の一冊 #05

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『野の医者は笑う』東畑開人/文春文庫


もやもやしたり、イライラしたり、くよくよしたときに、
そこに何が関わっているかを客観視できたなら、心は少し軽くなるかもしれません。
自分を知る、人を知る、時代を知る、社会を知る──。
理解の手助けになるような本を、こころの本屋の本棚から紹介します。

Text : Rie Ishikawa
Edit : Ayumi Sakai

スピリチュアルによる癒しを
学術的に解き明かす

スピリチュアルな世界を信じていますか? 私は、目に見えないものを「信じる」という心の状態にずっと関心があります。何を信じるか、思い込むかによって自分というものの中身が積み重なり、人間が出来上がっていくように感じているからです。
 信じるって何だろう? そんな好奇心から手にした本書は、今を時めく臨床心理士であり、文章のおもしろさでも推したい東畑開人さんの(一般書)デビュー作。治療ってそもそも宗教的なことではないかーーという仮説を立てた東畑さんが、スピリチュアルなヒーリングの数々を受けまくるぶっとんだコンセプトです。占い、リーディング、波動、潜在意識へのアプローチなど、科学の外側で人々を癒しているヒーラーたちを「野の医者」と名付け、心の治療とは何かに迫ろうとします。
きっかけとなったのは、妄想に苦しんでいた東畑さんのクライアントが、スピリチュアルな治療によりあっけなく症状を改善させたことに衝撃を受けたからでした。そうしてはじまったフィールドワークに、企業からの助成金も取り付けて研究を進めていく様は、学術的でありながら笑いと人情にあふれています。あったかいです。この研究の間に失業して無職になり、臨床心理学の世界に居場所を失った東畑さんの自伝ともいえる物語なのです。
最後に導き出される著者なりの結論は、臨床心理学とスピリチュアルと、どちらが優れているかなどという次元のものではありません。野の医者はなぜ「笑う」のか。私たちはどんな時代に生きているのか。あちこちに心揺らしながら、誰かの信じていることも自分の信じているものも大切にしたい気持ちになりました。

『野の医者は笑う』東畑開人/文春文庫
京都大学の大学院で博士課程を修了し、
臨床心理士として沖縄の精神科クリニックで心の治療に従事していた著者が、
自分の信じていた臨床心理学を問い直すためにはじめた冒険の記録。
謎のヒーラーたちを取材し、ヒーリングの数々を受けながら、
心の治療とは何かに向き合っていく。2015年に誠心書房より出版された単行本を、
2023年に文庫化し、加筆している。

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