「こころの本屋」選・今月の一冊 #04

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『デミアン』ヘルマン・ヘッセ(高橋健二訳)/新潮文庫


もやもやしたり、イライラしたり、くよくよしたときに、
そこに何が関わっているかを客観視できたなら、心は少し軽くなるかもしれません。
自分を知る、人を知る、時代を知る、社会を知る──。
理解の手助けになるような本を、こころの本屋の本棚から紹介します。

Text : Rie Ishikawa
Edit : Ayumi Sakai

たとえ世界が変わっても
自分自身でいられるか?

2020年、コロナ禍になって世界が一斉に停滞していた頃、私は50代になりました。子育てが終わり、仕事もおそらく減っていく。自分はこれから何をしてどう生きていきたいのか、人生の後半をどう組み立てたらいいのかーーと、個人として惑っているところへ、パンデミックで社会の見通しも立たなくなった。まるでモラトリアムの再来のようでした。
そんな時期にヘッセの『デミアン』を手に取ったのは、ユングの深層心理学に影響を受けた作品であることに興味を持ったからです。
第一次世界大戦の時代に生まれた本作には、主人公の少年が両親の庇護のもとから精神的に自律していくまでの、もがきや苦しみの数々が緻密に描かれています。美しくて正しい両親の愛をはね返さなければ、自分として生きられない。プロテスタントの宣教師である家庭に育ったヘッセの少年時代が、さぞ抑圧されたものであったことを想像するとともに、今の時代の私たちにはいったいどんな抑圧がかかっているのかと考えながら読み進めていきました。
物語の前半には、主人公のついた「嘘」が取り返しのつかない事態を招きます。ヒリヒリする展開は、安易に周りに合わせることの危うさを暗示しているようにも受け取れました。終盤に差しかかるにつれ、私には解釈の追いつかない部分も。それでも、読み終えたときには人間が普遍的に追い求めるものを少しつかんだ気持ちになりました。本作を手にした時の私は、何も持たなくなっていく自分を見つめたかったのかもしれません。50代のモラトリアムはこれ以上の大人になるためではなく、自分に戻っていくための時間だったのです。

『デミアン』ヘルマン・ヘッセ(高橋健二訳)/新潮文庫
ヘッセが40代の頃に書いた本作は、主人公が10歳の頃の体験から物語がはじまる。
両親の教えにそった清く明るい世界と、道徳的に禁じられた暗い世界。
宗教観を背景に、ふたつの世界に揺れ動く主人公は、
「悪霊にとりつかれたもの」を意味する「デミアン」という名の友人に導かれながら、
何者にも支配されない、自分自身であるための道のりを模索する。
ヘルマン・ヘッセ/高橋健二訳『デミアン』(新潮文庫刊)

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