あのひとの描く人生模様 #02

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医師・稲葉俊郎さん vol.3
「呼吸、眠り、温泉。自分だけの『くすり』の見つけ方」


医師としての経験を活かしながら、
音楽やアート、文学、伝統芸能といったさまざまな芸術と対話、
湯治などをかけ合わせた「いのちを呼びさます場」づくりに
取り組む活動を続けている稲葉俊郎さん。
心を喜ばせ、命を高める取り組みとして、
誰でもすぐに取り入れられることを教えてもらいました。
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Photo : Kohei Yamamoto
Text : Akari Fujisawa
Edit : Ayumi Sakai

喜びで満たされると、命の力も高まっていく

人間に備わっている自然治癒力。しかし病や傷は、ときに目に見えないかたちのない場所、つまり「こころ」に生じることもあり、その手当ての難しさを感じます。
しかし、「どんなことであっても、その人が解決する力を持っています」。そう話してくれたのは、医師・稲葉俊郎さんです。

「自分が喜ぶものを見つけること、これを僕は「自己治療」と呼んでいます。僕なら芸術、温泉、音楽など、横尾忠則さんの作品もそうです。『困ったらここへ行こう』『これを見よう』という自分なりの『くすり』を持っているようなものですね。

特に喜びというのは、大きな力です。体内が歓喜、感動、ワクワク、そういったもので満たされると、自分の命も喜びます。生命の力が高まっているときです。これが、別の言い方をすれば『免疫』となるのかもしれません。

絵、音楽、場所、動物、植物など、心を揺り動かすものは、人それぞれです。ホースセラピーやイルカセラピーといった療法を聞いたことはありませんか? アニマルセラピー、英語では『Animal Assisted Therapy』と呼ばれるものです。僕は自然の中を歩いていると気持ちが落ち着きます。誰にとっても、自分だけの「くすり」があるのだと思います」

立ち止まって深呼吸。まずはここから始めてみましょう

どうしても苦しい状況にいる。何か変わりたい。そう思っている人へ向けて、いますぐに試せる行動を稲葉さんに教えていただきました。
いちばん手軽で、誰にでもできる方法として教えてくれたのは「深呼吸」です。

欲望がギラギラしたような状態のときには、呼吸は早く浅くなりがちです。そうすると、その人の身体感覚としての時間も短くなっているので、短絡的なものばかり求めるようになってしまうのです。

呼吸が深くなるだけで、時間がゆっくりと流れ、心が落ち着いてきます。これはいちばん簡単な自己治療のメソッドです。道具も、お金もいりません。1分、3分、10分とやっているうちに、心が変わっていくのを実感できますから、呼吸なんてと軽んじず、ぜひ試してみてください」

質の良い眠りを誘う、良質な「ことば」

眠りも大切な「くすり」になるといいます。

無意識下にある眠りは、外的要因にとらわれたり揺さぶられたりすることのない、いわば本来の『いのち』そのものの世界です。むしろ、いのちのメインは起きている時間よりも眠りにあるとも言えます。

ですから、その質を高めていくためにも、まずは一日だけでも、眠りを中心に設計してみてはどうでしょうか。
通常は、昼起きているときを基準に生活を組み立てますが、夜の良質な眠りのために、何を取り入れるか、どう行動するかを考えてみるのです。

入眠にも音楽や本など、いろいろありますね。僕がおすすめしたいのは、眠りにつく前の詩の時間です。詩人の言葉は短いので、すっと入ってきます。読み解こう、理解しようと思わなくていいんです。わからないまま、味わうだけ。

食べ物も味わうだけで、この栄養素が……と分析しませんよね。同じように詩も、もっと言えば他の芸術も、わかるよりも通過させることが大切です。味わって取り入れることで、体が勝手に反応してくれます。

少し、良い詩に触れてから眠る。蛍光灯ではなく、薄暗い空間で10分、20分もあればじゅうぶんです」

温泉は地球のエネルギーを肌で受け止められる場

そして最後は、温泉の力です。

「温泉は、地球の水と鉱物、マグマのエネルギーが溶け合った地球の循環の一部です。誰かが沸かしたのではない、地球のエネルギーそのものであり、恩恵なのですね。
私たちは地球に生きて、生かされているだなんて、抽象的すぎてなかなか実感できません。でも温泉は裸、つまり生まれたときの姿になり直接そのエネルギーを肌で感じられる場です。

いまは困ったら病院に駆け込みますが、長い歴史においては人が集まる医療の中心に温泉がありました。その場で人々が気づきを得たり、その人自身の生きる力を高め、自然治癒力を活性化させていく場が温泉だったんです。

自然の中で、裸になって地球を感じながら過ごす時間は、真っ白な診察室の中では永遠に到達できない医療であり、ゼロに戻れる大切な場だとも思います。頭ではなく身体感覚として、自分の体で感じてみてほしいです。

できれば普段の生活圏から少し離れて、自然の中にある温泉に行けるといいですね。転地療養というだけあって、場所が変わるのは大事なことです。固定された考えから、ちょっと自由になれると思います」

過去に戻らず、今日を新しく生きていく

あのとき、ああ言えばよかった。あのせいでこうなったのだろうか……。誰しも、過去の思いにとらわれて身動きできず、悩みに陥ってしまうことがあるのではないでしょうか。そんなときにも『くすり』は力になってくれます。

「過去には物理的には戻れないのに、頭の中ではいくらでも戻れてしまうので、ずっと悩みの中にいられるし、自分を何度でも傷め続けることだってできてしまいます。けれども、その過去に戻る発想自体が悩みを生み出している構造に、まずは気づいてほしいです。

常にいまここにいて、未来に向けて自分を開いていけば、過去に縛られることはありません。そのためにも芸術はおすすめです。良い作品を見ているときは、気持ちは過去に向かわないですから。

深呼吸をして、アートに触れたり温泉に入ったりして、よく眠る。朝、起きたらゼロに戻ってまた新しい一日、新しい人生を生きていくのだという気持ちで過ごしてもらえたらと思います。

まずは、自分に合うものを探してみてください。それが何なのかと言われたら、僕にもわかりません。結局のところ、何が『くすり』になるのかは、本人にしかわからないものなんです。とことんいろいろやってみて、トライアンドエラーできっと見つかります。

稲葉があんなにいいというなら、ちょっと温泉へ行ってみようかな、そのくらいの感じで試してもらえたらうれしいですね」

< 稲葉さんの著書 >
どの本も現代社会の中で、
対話や場づくりを通じて「いのち」をどう輝かせていけるかを示してくれる。
左から『いのちの居場所』(扶桑社)、
『いのちはのちのいのちへ 新しい医療のかたち』(アノニマスタジオ)
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