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「こころの本屋」選・今月の一冊 #02

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『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』安達茉莉子/三輪舎


もやもやしたり、イライラしたり、くよくよしたときに、
そこに何が関わっているかを客観視できたなら、心は少し軽くなるかもしれません。
自分を知る、人を知る、時代を知る、社会を知る──。
理解の手助けになるような本を、こころの本屋の本棚から紹介します。

Text : Rie Ishikawa
Edit : Ayumi Sakai

自分を後まわしにしてしまう人へ。
部屋の中に「幸せ」を増やそう

洗いたてのシーツの上に、寝転んだときの心地よさ。安達茉莉子さんはそれを「誰にでも与えられている、幸福の入口」だと本書の中で書いています。たしかにその通りだなあと、私がつくづく思えたのは、安達さんの生活がその前まで荒れていたこと、ベッドで安眠どころではない多忙さだったことまで、包み隠さず書いてあったからです。
誰にでもできるはずなのに、そのひと手間をかけられないのが、働く人のリアルな日常です。シーツを洗ううんぬんの前に、晩ごはんをつくる気力が持てなかったり、片付けられない雑多なものに囲まれていたり、自分の面倒はどんどん後まわしになります。一方で仕事は、社会的評価や収入につながるため、優先にされがち。他者との約束事が発生しているから、なおさらサボらずにがんばってしまうのかもしれません。私も仕事を詰め込んでばかりですが、それによって家をどうでもいい状態にしているとしたら、なんてもったいないことなのだろうかと本書を読んで考えてしまいました。
安達さんの掲げている「生活改善運動」とは、自分の生活に目を向けて、心地よいと思うほうに改善する働きかけです。自主的であり、内発的であり、人格否定を伴いません。できない自分を責めるのではなく、行きつ戻りつをゆるしながら、自分にとっての幸せが何なのかを探り、仕事と暮らしを両立するバランスを模索します。
好きなお茶を毎日淹れること、本棚に旬の本だけを並べること、よい生地の服を着ることーー。この本には、幸せになれる時間を増やすための自己理解のプロセスが、安達さんの豊かな言葉で綴られています。読んでいるうちに、私の心にまで爽やかなやさしい風が吹き抜けるようでした。

『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』安達茉莉子/三輪舎
コロナ禍の影響で仕事をひとつ失い、10年以上住んでいた家を引き払った安達さん。
姉夫婦の家に居候したのち、ひとり暮らしを再開するにあたって、
これまでのピンチを再出発のチャンスと受け止め、「生活改善運動」を掲げることに。
実は好きじゃないのに使っていた日用品、惰性で買っていた食べ物や飲み物など、
「これでいいや」で選ぶことをやめ、心地よくなるための行動をとるに連れて毎日に変化が。
ついつい自分を後まわしにしてしまう人へ、そっと手渡したい一冊。

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