ミニマルで上質な暮らしが人気を集めるエッセイストの広瀬裕子さん。
驚くほど物を持たない広瀬さんが、手放さずに使い続けている物、新たに手に入れた物とは?
「本当に好きなものを少しだけ、大切に使う」という広瀬さんの審美眼に叶った
日用品の物語を綴ってもらいます。

ちいさなきれいを積み重ねる
「苦手な家事は?」と聞かれると、かぶせるように「アイロンがけ」と答えていました。それが、いつからか、アイロンがけがすきになりました。
すきというか、愛おしいというか。それは、アイロンをかけるという行為に内包されている時間に愛おしさを感じるようになったからに他ありません。
そう思えるようになったのは、歳を重ねたからなのか、このアイロンに出合ったからなのか──答えはでないままでいます。
シンプルで素っ気ないくらいのアイロン。アイロンを探していたときに出合ったのが、パナソニックのドライアイロンです。
それまでは「アイロンはスチームつき」と思っていたのですが、よく考えると霧吹きがあれば、ドライアイロンで事足りることに気づきました。かるい方が使いまわしはいいはずです。デザイン、色等含め、このアイロンを選びました。
使いはじめてから既に10年近く時間が流れています。造りがシンプルだからかその間トラブルは1度もなく、よく働いてくれます。
コードレスにしなかったのは、温度が下がらない方が作業を中断しなくていいからです。価格も良心的です。壊れる気配はまったくありませんが「もし次も」の時もこのアイロンにする予定です。
アイロンがけがすきになったと言っても、以前のように頻繁にアイロンを使うことはなくなりました。コットンやリネンの服を好んで着ていた時は、それこそ、毎日のように、ワンピースやブラウスにアイロンをかけていました。
歳を重ね、選ぶ服がやわらかなウールになると同時にアイロンをかける時間も少なくなりました。それでも、コットンの白いブラウスやTシャツはパリッとしたものがすきなので、休日の夕方、空の色が変わる頃になるとアイロンがけをはじめます。
自分の着るものや使うものが、アイロンにより、気持ちのいい状態になっていく。自らの手で整えていく。ちいさなきれいを積み重ねていく。
その行為を愛おしく思うようになるとは、以前は想像もしていませんでした。そう思えるようになったわたしに対して、わたし自身も、愛おしさを感じているのかもしれません。

しっかりしたものを食したくなる季節です。カツレツ発祥のお店のカツをいただきます。
(ぽん多本家)