現代人が抱える悩みや日々わいてくる心のもやもやに、
多くの人とその人生に向き合い、心を癒してきたあの人がアドバイス。
今回の回答者は、禅宗の僧侶・宇野全智さんです。
Edit : Ayumi Sakai
「足が痛い」「血圧が高い」など、体の不調を口にすることが増えた親。心配して運動やバランスのよい食事をすすめても「年を取るとおっくうで……」と言い訳して何もしないので、「それじゃダメでしょ」「健康は自分で守らないと!」と強く言ってしまいます。ご近所のシニアの方にはやさしくできるのに……。どうしたらイライラせず、もっとやさしくなれますか?
親が本当に伝えたいことは何か、見極める
「足が痛い」「血圧が……」と話す親が〝伝えたいこと″は何でしょうか。それを丁寧に聴くことが大切だと思います。
人は普段、話をするとき、事柄の話題には事柄で返します。例えば、「足が痛い」と言われたら「病院に行くといいよ」というように。でもそれは、親が求める寄り添い方ではないかもしれません。
こうした親子の会話では、親が話す事柄は、ただの〝入れ物″にすぎません。入れ物には気持ちが入っています。親は気持ちを伝えたいのに、子どもは入れ物だけを見て返事をしてしまう。だから、話がかみ合わず、言い訳する親にやきもきするのです。
親が伝えたいのは、事柄なのか気持ちなのか、それを見極めることが大切です。「足が痛い」とこぼす親は、どんな気持ちで、何を伝えたくて、自分に話しているんだろう。そう考えてみると、さみしい、悲しい、不安といった思いがみえてくるかもしれません。
「そうなんだ」と、ただ受け止めるだけでいい
親が体の不調や困りごとを話すときは、「そうなんだ」と受け止めてあげるといいと思います。現実的な対処法は親もわかっているでしょうから、アドバイスはいらないのです。
イライラしてしまったら、こんなふうに思ってみてください。「自分もいずれ年を取り、老いて死んでいく。自分のちょっと先輩が、足が痛いと言っているんだ。いずれ自分もそうなるだろうな」と。
「そうなんだ。大変だね。そのせいで何か困ったことや不安はある?」と返せば、「友達の家に遊びに行けなくなったのが残念でね。年を取ったから仕方がないけれど」と、気持ちを話してくれるでしょう。そうやって話を聴くうちに、親自身から「医者でも行ってみるか」と言い出して初めて物事が動きます。
こちらからと答えを出さず、親はどうしてその言葉を発したのか、その背景にある気持ちを丁寧に聴くようにしましょう。
解決できない思いに寄り添う
親の悩みや困りごとには、解決できないものもあります。医療など対処法や解決策があることはプロに任せられるけれど、解決不能な悩みを聴いてくれる人は、案外少ないものです。それができるのは身近な家族です。けれども、人は解決できないことに寄り添ってもらえて初めてほっとするだろうなと思います。まずは、ただ静かに話を聴き、親の心の中にが本当に伝えたいことは何だろう、と思いを巡らせてみてはどうでしょうか。